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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)56号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 本件発明の特許請求の範囲の訂正に関する請求の原因四1(一)の事実は当事者間に争いがない。右訂正を認めた審決は、成立に争いのない甲第一二号証によれば、特許法一二六条一項一号及び同項三号を引用しているところ、原告は右訂正は同項一号の特許請求の範囲の減縮であると主張し、被告は同項三号の明瞭でない記載の釈明であると主張するので、この点について判断する。

1 前記のように、本件特許請求の範囲における訂正前の記載には、単に「膨張性モルタル」とあるのみで、膨張開始時期、終了時期等につきなんらの限定も付されていないから、訂正前の右記載は、字義どおり広く「膨張する性質を有するモルタル」を包含するものと解すべきである。

これに対し訂正後の「セメントの硬化が進むに従つて膨張する性質をもつ膨張性モルタル」との記載は、後に認定するモルタルの混練から硬化に至る過程に徴し、「モルタルに含まれるセメントが硬化を開始した後から膨張を開始し、右硬化が終了するまで硬化の度合に応じて膨張を続ける性質を有するモルタル」を指すものと解すべきである。

2 すなわち、成立に争いのない甲第五、第七号証によれば、モルタル(セメント、砂、水を練り合わせたもの)は、混練直後はゾル状であるが、やがて凝固段階に入つてゲル状となり、凝固が終る頃から次第に水分が取り去られ、セメントのもつ塑性を失つて固結して外力に抵抗し得るようになり硬化の段階に入ること、右の凝固から硬化への移行時は必ずしも明らかではないが、混練したモルタルにプロクター針を貫入して引抜き、その際モルタルが針に示す抵抗値により凝固硬化速度を測定する実験において、モルタルは、早いもので約一時間半ないし二時間、遅いもので約三、四時間の経過後に針の貫入及び引抜に対し始めて抵抗を示すこと(このような差が生ずるのは、促進配合剤、遅延配合剤の添加の有無、温度等に起因するものである)が認められる。

右認定の事実によれば、少なくとも前記認定のモルタルが針に対し貫入、引抜抵抗を示さない時間帯においては未だモルタルの硬化が開始されていないことが明らかである。

3 そうだとすると、単に「膨張性モルタル」(訂正前の記載)といえば右の時間帯から膨張を開始するものを含むのに対し、「セメントの硬化が進むに従つて膨張する性質をもつ膨張性モルタル」(訂正後の記載)はかかるモルタルを包含するものではないということができる。したがつて、本件発明の特許請求の範囲の前記訂正は特許法一二六条一項三号の明瞭でない記載の釈明ではなく、同項一号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認めるのが相当である。

4 もつとも、成立に争いがない甲第二号証の一、二によれば、訂正前の本件発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、「使用する膨張性モルタルはセメントの硬化が進むに従つて膨張する性質を有するモルタルである。」との記載があることが認められる。しかし、訂正前の特許請求の範囲の「膨張性モルタル」の記載になんらの限定も付されていない以上、右の発明の詳細な説明の項の記載は訂正前の本件発明の一実施例について説明したものと認めるほかなく、これが特許請求の範囲の記載を限定するものと解することはできない。ほかに前認定を妨げる事実を認めるに足りる証拠はない。

三 このように、訂正審決により本件発明は出願当初から訂正後の特許請求の範囲記載のとおり減縮されたものとみなされるから、審決は結果的に本件発明の要旨の認定を誤つたことになる。そうすると、審決はこれを前提として引用例と対比判断をなした違法があるというべきであり、この違法は審決の結論に影響を及ぼすものである。

四 よつて、その余の点について判断するまでもなく原告の本訴請求を正当として認容する。

〔編註〕 本件における訂正審決前の特許請求の範囲は左のとおりである。

比較的薄肉の鋼管内に膨張性モルタルを投入し、遠心力によつて規定の壁厚の膨張性モルタル硬化層を形成し、該モルタル硬化層に鋼管によるプレストレスを与えたプレストレストモルタル管。

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